1. 今日の話
今日、一つのプロジェクトを正式に始動しました。プレスリリースはこちらから。
GOLD ART EDITION。現代アーティストの海外展開を継続的に支えるエディション・プロジェクトです。第一弾は香川を拠点に活動する画家、渋田薫さん。
ただ今日はそのプロジェクトの告知をしたいわけではなく、なぜこれをやるのかを書いておきたいと思います。2016年にアートを買い始めて、10年が経ちました。その10年で見えてきたことがあります。
2. アートブームを振り返って
2020年にアートの管理会社としてbetween the artsを創業しました。今のCollection Bankです。コロナ禍のアートブームに重なり、少しでも現代アートの認知が広がれば、アートを買って楽しむ人が増えれば、若手作家の支援になればと思って、コレクション展やアートコンペなど、本業とは少し違う活動もしてきました。
あのころ、アート業界の方々がよくおっしゃっていた言葉があります。「いつまでこのブームが続くかわからない」「過去にもこういうことがあったが、すぐに終わった」「今が通常だ」と。
正直なところ、当時はいまいちピンとこなかった。今もピンとこない部分があります。なぜなら、この10年の経験で、現代アートの価値形成の仕組みが理解できたからです。ブームが来ては去るというのは、その仕組みを支える構造がないからこそ繰り返される、ということもわかりました。
3. 価値が形成される、本当の仕組み
現代アートの価値形成には、ある程度共通した流れがあります。
海外の美大やアーティスト・イン・レジデンスに行く。そこでネットワークを構築する。現地にスタジオを構え、作品を見せる場所をつくる。構築したネットワークに向けて発信する。できるだけ多くのキュレーターとの関係を築く。海外の展示に呼ばれ、作品を美術館や研究機関に収蔵していく。Artfactsのランキングが上がっていく。それを繰り返しながら、オークション市場での実績を整えていく。
Artfactsは展示活動を把握する代表的な指標であり、Artpriceは公開オークション市場での実績を見る代表的なデータベースです。この二つを合わせて見ることで、展示評価と市場評価の両面を確認できます。
この仕組みの核心はキュレーターです。美術館での展示も、国際展への選出も、コレクターとの出会いも、多くはキュレーターとの関係から始まります。海外のレジデンスや大学に通うのは、つまりキュレーターとのネットワークをつくるためです。
これはビジネスの話です。アートは崇高なものでも、意味がわからないものでもありません。価値を形成する構造があり、その構造に接続するための具体的なステップがあります。
4. 日本人作家に何が起きているか
日本の作家のほとんどは、国内で活動して、生活のためにとにかく作品を売ります。そして誰かにオークションに出され、オークションに出品されても、それを継続的に支える市場やコレクター層が形成されていないため、期待した価格が付かず、その後の市場評価に大きな影響を与えることがあります。
これがコロナ禍のアートブームの中で起きたことです。多くの日本人が「作品の価値」とは何かについて、根本的に違う前提を持っていることが露呈しました。
海外に挑戦することが資金面で大変なことはよくわかります。でも、価値形成という意味では海外でも活動をしないとどうにもなりません。国内で評価が固まっても、国際的な文脈に接続されなければ、その評価は「国内の話題」で終わります。
才能が足りないのではありません。挑戦を続けられる仕組みが足りないのです。
5. なぜエディションなのか
重要な原画は、将来の展覧会や美術館展示のために手元に残す必要があります。すべてを早期に販売してしまうと、重要な展示機会に出せなくなります。一方で、海外での活動には渡航費、輸送費、設営費、レジデンス参加費、翻訳費と、継続的な資金が必要です。
エディション作品を制作・販売し、その収益をアーティストの海外活動費に充てる。これがGOLD ART EDITIONのシンプルな構造です。
素材として紙の版画ではなく、純金箔を選びました。アートに馴染みのない人でも、純金という素材には直感的な価値を感じやすいと考えたからです。現代アートへの入口として、感覚的に惹かれるものを選びました。
価格は¥398,000(税込)、40万円未満に設定しています。一定の要件を満たす中小企業では、少額減価償却資産の特例の対象となる可能性を考慮し、この価格帯に設定しました。個人だけでなく法人でも検討しやすい整理になっています。詳細は税理士や顧問にご確認ください。
日本中の企業が、オフィスに一枚飾りながら日本人作家の海外展開を支援する——そういう広がり方を想像しています。
エディションは原画の代用品ではありません。作家の表現を多くの人へ届けながら、活動の継続を支える、もうひとつの作品です。そしてコレクターにとっては、完成した価値を買うのではなく、価値が形成されていく時間をともにする、新しいコレクションのあり方でもあります。
日本の才能が世界へ向かうプロセスを、一緒に楽しんでほしいと思っています。
6. 渋田薫さんについて
第一弾として選んだのは、渋田薫さんです。
1980年北海道生まれ。「世界は音で繋がっている」という制作コンセプトのもと、クラシック音楽の響きを色彩と形に翻訳する画家です。ヴェネツィア、ロンドン、バルセロナ、ジャカルタ、フィレンツェ——すでに海外の展覧会・アートフェアに継続的に参加し、高松市塩江美術館をはじめ国内外の機関に作品が収蔵されています。
今回のエディション作品「Piano Concerto, 2026」は、純金箔にプリント、スラブケース入り、63×88mm、エディション100(直筆サイン入り)、価格は¥398,000(税込)です。
このエディションの収益は、渋田さんの海外渡航費・作品輸送費・アートフェア出展費・滞在制作費に充当されます。
7. まとめ
アートコレクションを始めて10年。その経験を通じて見えてきた構造を、もっと多くの人に伝えたいと思ってきました。そして、その構造の中で挑戦を続けようとしている作家を、継続的に支えられる仕組みをつくりたいと思ってきました。
GOLD ART EDITIONはその答えのひとつです。
エディションは入口です。作品を手元に置いて、作家の活動を追って、もっと応援したいと思ったなら、ぜひ原画に挑戦してほしいと思っています。エディションから原画へ。その先に、本格的なコレクターとしての旅が始まります。
コレクターにとって。アーティストにとって。そして現代アートを「ビジネスとして正しく理解したい」と思っている方にとって。何かの手がかりになれば、と思って書きました。
日本には、世界で通用する才能があります。足りないのは才能ではなく、その才能が世界へ届くまで挑戦を続けられる仕組みです。GOLD ART EDITIONが、その仕組みの一部になれたらと思っています。
観察のヒント: 気になる現代作家がいるなら、ArtfactsとArtpriceの両方で名前を検索してみてください。展示キャリアの厚みと、市場での実績がどう対応しているかを見ること。価格が上がった作家を追うのではなく、評価が積み上がっている作家を見つけること。そこから始まります。













