ヴィンテージになる前に持っていた。── パタゴニア シンチラ

ヴィンテージになる前に持っていた。── パタゴニア シンチラ

大城崇聡(Collection Bank代表取締役)

  1. 今日の対象

「大学のとき、紫を1点、ピンクを1点。シンチラを2枚持っていた。」

色の記憶が残っている。それだけ印象的な2枚だったということです。

今回はPatagonia(パタゴニア)のSYNCHILLA(シンチラ)スナップTを中心に掘り下げます。1985年に誕生したフリース素材「シンチラ」を使ったこのプルオーバーは、アウトドアウェアとして生まれながら、90年代以降はストリートや古着カルチャーにも受け入れられ、現在ではヴィンテージ市場で別格の評価を受けています。

  1. 昔はどう見られていたか

2000年代前半、大学生だった自分は大学近くの行きつけの洋服屋で紫を1点、ピンクを1点。シンチラを2枚買いました。当時はただ色が格好いいと思って買った。アウトドアブランドのフリースという意識はほとんどなかった。

パタゴニアのシンチラは、長い間アウトドア好きや古着好きに愛される実用品として親しまれてきました。それが今、「オールドパタゴニア」として古着市場で全く別の文脈で語られるようになっています。

90年代製のシンチラスナップTは、現在のヴィンテージ古着ブームを象徴するアイテムのひとつとなっています。当時「普通の洋服屋に並んでいたフリース」が、今「ヴィンテージ」として全く別の評価を受けている。

ノスタルジー投資とは、自分の「好き」が、あとから文化的価値として再評価される現象です。

  1. なぜ価値が生まれたか

シンチラ素材という「革命の記録」

シンチラとは、PatagoniaがMalden Mills(現Polartec)と協力しながら改良を重ね、1985年にSynchillaという独自素材として展開したフリース素材です。軽くて暖かく保温性が高いこの素材は、アウトドアウェアの概念を変えました。現行モデルとは毛足や厚み、発色に違いがあり、90年代特有の風合いを好むコレクターも多い。当時特有の素材感は現行品とは異なり、その風合いを魅力と感じるコレクターも少なくありません。

MADE IN USAという「製造の証明」

初期〜90年代前半はUSA製が多く、90年代後半以降は海外生産へ移行していった。現在のシンチラは海外生産が中心となっており、USA製はヴィンテージならではの特徴となっています。製造国の変化が、当時物の希少性の根拠になっています。

カラーリングという「時代の記憶」

90年代のシンチラは、今の目線から見ても鮮やかで大胆なカラーリングが多い。紫、ピンク、イエロー、グリーン。当時のアウトドアウェアが持っていたカラフルな配色は、今の市場でも「レアカラー」として特別な評価を受けています。好配色の個体は、同じ年代の定番カラーより評価が高くなる傾向があります。

タグという「年代の手がかり」

パタゴニアのタグは年代判別の手がかりになりますが、タグだけで年代を断定するのは難しく、品番タグや製造国と合わせて判断するのが基本です。

代表的なタグとして、70年代中期〜80年代初期の白タグ、古着市場では「デカタグ」と呼ばれる初期タグ、1992〜1994年頃の短期間のみ使用された雪なしタグなどがあります。雪なしタグは使用期間が短く、人気モデルにも多く見られることから、高い人気があります。

また品番タグから製造年を読む方法もあります。例えば「FA15」なら2015年秋冬製造というように、アルファベットと数字の組み合わせで製造時期が判別できます。

  1. 観察ポイント

シンチラの評価を決める4つの軸です。

① タグと製造国で年代を読む タグのデザインと合わせて、MADE IN USAの表記を確認してください。USA製はコレクター人気が高く、素材感や仕様の違いも評価されています。品番タグの数字でも製造年が確認できます。タグだけで年代を断定せず、複数の情報を組み合わせて判断してください。

② カラーリングの希少性を確認する 紫、ピンク、イエローなどの鮮やかなカラーや好配色の個体は評価が高い傾向があります。定番カラーより希少カラーの方が市場評価が上がりやすいジャンルです。

③ 素材と状態を観察する 90年代のシンチラは厚手で独特の発色が魅力。フリースのヘタリ、スナップボタンの状態、パイピングの状態を確認してください。状態の良い個体は市場でも高く評価される傾向があります。

④ モデルとデザインを判別する シンチラスナップT、総柄モデル、グリセードなど、モデルによって価値の文脈が変わります。総柄は特に希少性が高く、スナップTの中でも別格の評価を受けています。

  1. 今の相場感

P2P市場や専門古着店の販売価格を参考にします。状態・タグ・カラー・モデルによって大きく変動するため、あくまで目安として参照してください。

白タグ・デカタグ(初期モデル) 初期タグの個体は流通数が少なく、希少性が高い。状態の良いものは専門店では数万円以上の取引が見られます。

雪なしタグ(1992〜1994年頃) 短期間のみ使用された希少なタグ。USA製・良状態の個体は特に高評価で、状態次第で20,000〜50,000円以上の取引も見られます。

USA製シンチラスナップT(90年代) 状態・カラー・モデル次第で10,000〜30,000円前後が目安です。レアカラーや好配色の個体はさらに上を狙えます。

総柄モデル(90年代) 希少性が高く、状態の良いものは30,000〜60,000円以上の取引が見られます。人気柄では10万円近くになるケースもあります。

一般的なシンチラ(90年代後半〜) P2Pでは数千円〜10,000円前後の個体も多く見られます。カラーと状態の条件が揃うと大きく跳ね上がります。

  1. コレクションとして持つ意味

高校生のとき、祖父からロレックスのオイスターパーペチュアルデイトをもらった。特別高価なものではなかったけれど、ずっと手放さなかった。売ろうと思ったことも、正直ある。でも手放せなかった。好きだったから。

大学生のとき、大学近くの行きつけの洋服屋で紫を1点、ピンクを1点買った。格好いい色だと思って買った。アウトドアブランドのフリースという意識はほとんどなかった。その2枚は今、手元にありません。いつの間にか手放してしまった。

今になってあの紫とピンクの色の記憶が戻ってきます。当時「ただのフリース」に見えていたものが、今「90年代の記憶」として見える。あの配色は、今の市場でレアカラーとして評価されている。

同じ2枚なのに、時間が見え方を変えた。

ノスタルジー投資とは、自分の「好き」が、あとから文化的価値として再評価される現象です。

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