【ロレックス サブマリーナ 年代別シリーズ】第4回

【ロレックス サブマリーナ 年代別シリーズ】第4回

Ref.1680(1960年代後半〜1979年頃)——赤と白、デイト機能という転換点

1. 今日の対象

先週はRef.5512とRef.5513——30年間作り続けられたクラウンガード付きノンデイト・サブの系譜を扱いました。「完成されていたから変わらなかった」という話でした。

今週は第4回。Ref.1680です。

1680は、サブマリーナの歴史において明確な転換点を作ったモデルです。サイクロップレンズ付きのデイト表示——日付窓——がサブマリーナに初めて加わった。それまでのサブマリーナはすべてノンデイトでした。この変化が、「ダイバーズウォッチ」を「日常使いの道具」へと押し広げた転換点でもあります。

そして1680には、もうひとつの顔があります。「赤サブ」です。

2. なぜ今これを見るのか

Ref.1680は通常仕様であれば市場での出現頻度は比較的高いモデルです。”赤サブ”や来歴の確認されたダブルネーム個体などでは価格は急激に高くなります。また変色した”トロピカルダイヤル”や退色したベゼルなどは、時計の価値を上げる効果があり、結果として価格は800万円近く、あるいはそれ以上にもなります。

これがRef.1680の市場の実態です。同じRefナンバーでも、ダイヤルの色と仕様によって価格が5〜6倍以上変わる。「どの1680を持つか」という選択が、コレクターとしての観察眼を問われる場所です。

3. 何が価値を作っているのか

デイト機能という転換——サブマリーナの顔を変えた日付窓

Ref.1680は1960年代後半に登場した、サブマリーナ初のデイト付きモデルです。登場年は資料により1967年説と1969年説が見られます。搭載ムーブメントは、1570系をベースにデイト機構を備えたCal.1575。資料によってはCal.1570と表記されることもあるが、デイト付き仕様としてはCal.1575と説明されることが多い。振動数は19,800振動/時で、1970年代前半以降の個体ではハック機能を備えます。クロノメーター認定を受けた高精度モデルで、ノンデイト・ノンクロノメーターのRef.5513とは明確に差別化されたポジションにあります。

サイクロップレンズ自体は1950年代からロレックスに存在していましたが、サブマリーナにデイト表示とともに加わったことで、1680はサブマリーナの顔つきを大きく変えました。デイト表示を拡大するためのこの凸レンズは、サブマリーナ系のデイト付きモデルに広く引き継がれていく仕様になりました。

1570系ムーブメントは、1960年代以降のスポーツロレックスを支えた名機として知られています。1680ではそのデイト付き仕様が使われ、整備性の高さから現在でも評価されています。

赤サブという限られた時代

1680の中で最もコレクターに知られているのが「赤サブ」です。

赤サブマリーナーとは、文字盤上の「SUBMARINER」のロゴが赤色で印字された、ロレックス・サブマリーナー Ref.1680の初期モデルのことです。この赤サブは、Ref.1680の中でも特に希少価値が高く、赤ロゴが採用されていたのは1969年頃から1975年頃までの限られた期間とされます。一部資料では1967年開始とする説もあり、製造開始年については諸説あります。

なぜ赤い文字だったのか。明確な公式説明はありません。視認性のためとも、初期モデルを区別するためとも言われていますが、決定的な理由は記録されていない。その「謎」がコレクターの想像力を刺激し続けています。

赤サブの中でも、特にコレクター人気が高いのは、「メーターファースト」と言われる前期型で、経年変化でダイヤルがブラウン調に変色したものは、とくに人気が高い。防水表記が「200m=660ft」とメートル先行になっている、いわゆるメーターファーストであることが識別ポイントになります。

白サブへの移行

1970年代中盤以降、1680のダイヤルは「SUBMARINER」の表記が白文字に変わります。通称「白サブ」です。

前期型の「赤サブ」と後期型の「白サブ」という2つの顔を持つことで知られています。白サブは赤サブと比較して流通量が多く、価格も相対的に落ち着いています。しかし状態の良い個体、特にトロピカル化したダイヤルを持つ白サブは、コレクター市場で独自の評価を受けています。

COMEXという特別仕様

Ref.1680 COMEXは、1970年代後半にCOMEX向けに供給された極めて希少な仕様で、現存資料では約60本前後とされます。水中での高圧エンジニア作業を専門に行っていたフランスの会社COMEXとの関わりから生まれたモデルですが、1680自体はヘリウムエスケープバルブを備えないため、Sea-Dwellerや5514のような飽和潜水用COMEXモデルとは性格が異なり、トレーニング用途やCOMEX関係者向けと説明されることが多いです。

COMEXロゴ入りの1680は、約60本という極端な希少性ゆえに、市場への出現はほぼありません。出たときの価格は通常の1680とは比較にならない水準になります。

マークバリエーションという沼

赤サブには複数のダイヤルバリエーションが存在し、一般にMk.1以降の分類で整理されます。分類方法によって数え方は異なり、オークション資料では7種類の赤サブ・ダイヤルが言及されることもあります。

この「マーク」の違いを知っているコレクターと知らないコレクターでは、同じ個体を見たときの解像度がまったく違います。特に赤サブのMk.1は最初期個体として別格の評価を受けており、シリアルナンバーと照合しながら年代を特定していく作業が、1680コレクションの醍醐味のひとつです。

生産数と現存数

1680は1960年代後半から1979年頃まで製造され、約12年間の生産期間を持ちます。5513の27年と比べれば短いですが、デイト機能という付加価値によって当時の販売数は相応にあったとみられます。

P2P市場でも一定数は見つかりますが、赤サブや整合性の高い個体は出現頻度が低く、良品は短期間で売れる傾向があります。

4. 今の相場感

白サブ(通常仕様) 通常仕様の白サブでも、状態・付属品・整合性によって価格差は大きいですが、2026年6月時点のグローバル市場では概ね200万円台後半〜300万円台を中心に見るのが現実的です。極端に安い個体は、文字盤交換・外装状態・パーツ整合性を慎重に確認する必要があります。

赤サブ(SUBMARINER赤文字) 赤サブは白サブと明確な価格差があります。状態によって価格は数百万円から800万円近く、あるいはそれ以上にもなるケースが確認されており、特にメーターファーストの初期ダイヤルで均一で美しいブラウン変色が見られ、オリジナル性が確認できる個体は別格の評価を受けます。

COMEXバージョン COMEXロゴ入りの個体は通常の相場とは切り離して考える必要があります。約60本前後という極端な希少性のため、オークションや専門店経由での取引が中心で、通常仕様とは比較にならない水準で取引されます。

1680は同じRefナンバーの中で最も価格幅が大きいモデルのひとつです。「1680を持つ」という事実よりも「どの1680を持つか」が、コレクションとしての意味を決めます。

5. 何を観察するべきか

赤か白かを確認する まず「SUBMARINER」の文字色を確認する。赤か白か。これだけで前期・後期の大まかな判別ができます。ただし赤サブの製造期間には諸説あるため、シリアルナンバーと照合した確認が必要です。

赤サブの各マークバリエーションを覚える 赤サブの各マークバリエーションを視覚的に覚えておくことが、P2P市場での即断につながります。防水表記の順番(メーターファーストかフィートファーストか)、「6」の字体(クローズドかオープンか)——これらの細部が個体の年代と価値を決めます。

サイクロップレンズの状態を見る 1680特有の観察ポイントがサイクロップレンズの状態です。風防の劣化・傷・交換の有無が価格に影響します。オリジナルの風防が残っているかどうかを確認することが基本です。

COMEXロゴの真贋を知る COMEXバージョンは偽造や後付けロゴが存在するため、専門家による確認が必須です。ダイヤルの印字の質、シリアルとの照合——この確認なしには手を出せない領域です。

6. コレクションとして持つ意味

高校生のとき、祖父からロレックスのオイスターパーペチュアルデイトをもらった。特別高価なものではなかったけれど、ずっと手放さなかった。売ろうと思ったことも、正直ある。でも手放せなかった。好きだったから。

1680は、「実用とコレクション」の境界線にある時計です。

デイト機能があるから、今日でも日常使いができます。ノンデイトの5513と違い、仕事の場でも腕に乗せやすい。同時に、赤サブという希少仕様はコレクターが垂涎する存在です。使いながら保有できる——この両立が、1680を特別な存在にしています。

「赤サブを持つ」という事実が持つ意味は、価格だけではありません。1960年代後半という、ロレックスがスポーツウォッチとして世界に認知されていく黄金期の産物を手元に置くということ。その時代の空気と記憶が、文字盤の赤い文字の中に宿っています。

7. まとめ

Ref.1680は、サブマリーナに「デイト」という機能を加えた転換点のモデルです。それはスペックの追加ではなく、サブマリーナが「海の道具」から「日常の相棒」へと変わっていく物語の始まりでした。

赤サブか、白サブか。COMEXか、通常仕様か。マークは何番か——同じ1680でも、観察の解像度によって見える世界がまったく変わります。

来週は第5回——Ref.16800 / 168000 / 16610の時代に入ります。サファイアクリスタル風防の採用、現代化の過程で何が変わり、何が残ったのか。1980年代という時代とサブマリーナの話です。

何を買うかより、何を知っているか。それがこのシリーズの出発点です。

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